北海道と関東を結ぶ長距離フェリー「さんふらわあ」は、移動手段であると同時に、一晩の船旅という特別な体験を提供してくれる交通機関です。とくに「ふらの」と「さっぽろ」は、どちらも大洗〜苫小牧航路に就航する姉妹船でありながら、船内設備や雰囲気、乗り心地などに細かな違いがあることで知られています。
乗船前にどちらの船になるかを確認できる場合、あるいは日程調整の余地がある場合には、「より快適なのはどちらか」「自分に合っているのはどちらか」を知っておきたいという声も多くあります。特に、船酔いが心配な人や、家族での移動、あるいはフェリー初心者にとっては、船の選び方が旅の満足度を大きく左右することもあるでしょう。
この記事では、「さんふらわあ ふらの」と「さっぽろ」の違いについて、設備や客室の快適性、運航スケジュールなど複数の観点から比較します。それぞれの特徴を具体的に掘り下げながら、どんなタイプの旅行者にどちらの船が向いているのかを明らかにしていきます。
船の基本スペック比較
建造年・船齢の違い
「さんふらわあ ふらの」は2017年5月に、「さんふらわあ さっぽろ」は同年10月に就航した新造船です。両船は同じ年に建造・運航を開始しており、設計や設備面では多くの共通点があります。ただし、就航時期に若干の差があることから、船内の細部においてわずかな仕様変更や調整が加えられている可能性もあります。
いずれも三菱重工業下関造船所で建造された「新・さんふらわあ」シリーズの船であり、当時の設計思想や需要に応じた最新技術が反映されています。船旅や設備に敏感な旅行者や船舶ファンにとっては、このような細かな差異も注目のポイントとなるでしょう。
船体構造と総トン数
「ふらの」「さっぽろ」ともに、全長199.7メートル、幅27.2メートルという大型フェリーで、総トン数は13,816トンです。旅客定員は約620名で、大型トラックの積載能力は両船とも約160台ですが、乗用車は「ふらの」が約146台、「さっぽろ」が約113台と差があります。車両の搭載バランスや配置の違いが、船内レイアウトにも影響している可能性があります。
両船はともに省エネ型のエンジンと環境対策技術を採用しており、航海性能や排出ガスの削減に配慮した設計です。総トン数に大きな違いはないものの、装備品や内装の違いが実際の重量バランスに影響を与えている可能性があり、それが揺れやすさの体感に差をもたらすこともあります。
客室の種類と快適性の違い
客室タイプの比較(スイート・個室・大部屋)
「ふらの」と「さっぽろ」には、それぞれスイートルームから相部屋スタイルのツーリストまで、複数の客室タイプが用意されています。スイートルームやデラックスルームでは専用バス・トイレが設けられており、ベッドの配置や照明、窓からの眺望なども工夫が見られます。ビジネスホテルに近い快適性を求める人には、これらの上位グレードが支持されています。
一方、スタンダードルームやツーリストベッドなどの個室タイプでは、プライベート空間を確保しつつもリーズナブルな料金設定が特徴です。客室の区切り方や出入りのしやすさは船によって異なり、通路の幅や遮音パネルの設計などに細かな違いがあります。大部屋にあたるツーリストはカプセル式ベッドが整列する構造で、カーテン付きの半個室型も導入されています。
客室の清潔感・内装デザイン
「ふらの」の客室は落ち着いた色調と木目調の素材が多く使われており、和モダンを意識した柔らかい雰囲気が特徴です。照明はやや控えめで、間接照明が多く取り入れられており、就寝前の時間を静かに過ごしたい層に好まれる設計となっています。ベッド周りの収納やハンガーフックなど、細かな生活導線にも配慮が見られます。
「さっぽろ」はやや明るめの内装で、白を基調とした清潔感のあるデザインが施されています。デラックスタイプの部屋にはアクセントカラーが取り入れられており、撮影映えを意識した空間づくりが感じられます。家具や壁面の材質に軽量素材が用いられており、全体的にすっきりとした印象を与える構成です。空調や照明のスイッチ類の配置にも微妙な違いがあります。
船内設備とサービスの比較
大浴場・シャワールームの設備差
「ふらの」と「さっぽろ」には、それぞれ展望大浴場が設けられており、太平洋を望む入浴体験が可能です。ただし、脱衣所の広さやロッカーの配置、洗い場の数などにわずかな差があり、混雑時の快適さに影響する場合があります。浴槽のサイズやジェットバスの有無といった細部の構成も船によって異なります。
シャワールームに関しては、各階の共用設備として設置されており、プライベート感のある個室型と簡易ブース型の両方が用意されています。清掃状況や利用可能時間帯は同様に見えても、実際の使い勝手や設備の新しさには船ごとに特徴が見られます。混雑のタイミングや稼働台数なども確認ポイントの一つとなります。
レストラン・売店の違い
船内レストランでは、朝・夕の定食メニューやビュッフェ形式の食事が提供されていますが、「ふらの」と「さっぽろ」でメニューの構成やホールの雰囲気に違いがあります。厨房の位置や座席数、席のレイアウトによって食事中の騒音や視界が変わることもあり、ファミリー向け・静かに過ごしたい層で印象が分かれます。
売店の品揃えは基本的に似通っているものの、商品陳列のレイアウトや取り扱い商品の一部に差があり、地元のお土産や限定アイテムの有無が旅行者の関心を引くポイントとなります。営業時間や決済手段、レジ周辺の混雑緩和策にもそれぞれの運用スタイルが反映されています。
ラウンジ・デッキ・自販機などの共用設備
共用ラウンジは船内の中央部やデッキ付近に設置されており、椅子の形状や配置、照明の雰囲気に違いがあります。「ふらの」では読書灯付きのパーソナルチェアが採用されており、「さっぽろ」ではオープンなソファスペースが中心になるなど、過ごし方の自由度に影響します。深夜の静けさや空調管理の面でも利用者の印象は分かれやすい部分です。
屋外デッキは両船とも開放されており、喫煙エリアやベンチの位置、風除け設備の配置が異なります。星空観察や日の出の撮影などを目的とする旅行者にとっては、導線や視界の抜け方が重要な要素になります。自動販売機の台数や種類、設置場所にも差があり、深夜帯の利便性に影響する場合もあります。
乗り心地と静音性の違い
エンジン音・揺れの体感差
「ふらの」と「さっぽろ」は同型クラスの大型フェリーであり、いずれも波の影響を受けにくい設計が施されていますが、エンジンの配置や防音構造の微妙な違いにより、航行中の音や振動の伝わり方に差があります。とくに船尾寄りの客室や共用スペースでは、プロペラ回転による微振動やエンジン音が感じられるケースがあり、船酔いしやすい人にとっては注意すべき要素となります。
揺れに関しては、海況や風向きにも左右されるものの、船体のバランス設計やスタビライザーの動作特性によって印象が異なることがあります。また、船内での歩行時に感じる揺れや、就寝中に気になりやすい振動のリズムなど、細かな乗り心地の差が利用者の記憶に残りやすいポイントとなります。
静かに過ごせる時間帯と場所
夜間帯の過ごしやすさは、船内の静音性と客室周辺の環境によって左右されます。「ふらの」ではエンジン音や館内放送が比較的抑えられた設計になっており、就寝時の騒音が気になりにくいという評価があります。一方で「さっぽろ」は共用部の広さが影響し、人の移動音や機械音が響きやすいという印象を持つ乗客もいます。
深夜のラウンジや通路周辺では、利用者の声や扉の開閉音が伝わることがあり、構造上の遮音性が静けさに大きく関係してきます。客室の位置によっても体感は変わり、中央寄りのフロアやエンジンから遠いエリアが静かに過ごしやすい傾向があります。また、個室タイプの遮音構造にも差があるため、旅の過ごし方によって好まれる空間が分かれることになります。
運航スケジュールと予約のしやすさ
出発・到着時間の違い
「ふらの」と「さっぽろ」は、どちらも大洗港〜苫小牧港を結ぶ夜行便として運航されていますが、出発・到着の時刻に若干の差がある日があります。大洗発の便では、どちらの船も基本的には19時台に出港し、翌日13時頃に到着するスケジュールが中心ですが、繁忙期や臨時ダイヤの際には、出港時刻が15分〜30分程度前後することがあります。特に夏季や連休中は、チェックイン時刻や乗船手続きに影響するため、事前確認が重要になります。
苫小牧発の便についても、基本的には18時45分〜19時45分前後に出発し、翌日14時頃に大洗へ到着するという流れですが、船によって微調整が加えられている場合があります。曜日によってはトラック積載の都合などで、出発時間が早まるケースもあるため、実際の運航時刻を公式サイトで確認する必要があります。
運航曜日のローテーション
「ふらの」と「さっぽろ」は、基本的に1日交代のローテーションで運航されており、例えば奇数日が「ふらの」、偶数日が「さっぽろ」といった具合に交互に配船されることが一般的です。ただし、メンテナンスやドック入り、繁忙期の特別運航などがある場合はこのパターンが変則的になることもあり、出航日直前まで決定しないケースも見られます。
また、年末年始や大型連休のような繁忙期には増便や臨時ダイヤが組まれ、1日2便体制になることもあります。その際はどちらの船がどの便を担当するかが入れ替わる可能性もあるため、希望する船に乗れるとは限らないスケジュールになります。定期ダイヤの確認に加え、最新の運航情報をこまめにチェックする必要があります。
船の指定はできるのか?
オンライン予約や電話予約の際、通常の手順では「ふらの」「さっぽろ」のどちらに乗るかを指定することはできません。予約システムでは運航スケジュールに基づいて自動的に船名が割り当てられるため、乗船日によって船が決定される仕組みになっています。ただし、出発日の数週間前には配船が確定するため、乗りたい船がある場合はスケジュール表と照らし合わせて日程を調整する方法が取られています。
また、旅行代理店を通じたパッケージ予約や団体手配の場合、一部で船の指定が可能になることがありますが、一般の個人予約では難しいのが実情です。キャンセル待ちや予約の取り直しによって乗船船を変更できるケースもありますが、空き状況や等級によって制限されるため、希望がある場合は早めの計画が求められます。
利用者タイプ別おすすめの選び方
初めての船旅・初心者におすすめなのは?
フェリー初心者にとっては、船内の案内表示や導線のわかりやすさ、スタッフのサポート体制が安心材料となります。「ふらの」は館内表示が多言語対応しており、案内板のデザインも視認性が高いため、乗船中の移動に戸惑いにくいという印象があります。エントランスから客室への距離や動線がシンプルで、迷いやすいポイントが少ない構造になっています。
「さっぽろ」では、館内アナウンスの回数やタイミングが丁寧に設計されており、初心者にも行動のきっかけがつかみやすいという傾向があります。また、インフォメーションカウンター付近の案内スタッフの配置や対応も丁寧で、トラブルや質問があった際のサポートに安心感を持てる場面が見られます。
家族連れ・子ども連れに向いているのは?
家族連れにとっては、キッズスペースの充実度やレストランのメニュー構成が大きな判断基準になります。「さっぽろ」には広めのキッズスペースが設けられており、滑り台やソフトクッション素材の遊具があるため、幼児が安全に遊べる環境が整っています。レストランでは子ども向けメニューや取り分けしやすい料理も用意されており、食事中のストレスが軽減されます。
「ふらの」は客室階から共用エリアへのアクセスがしやすく、移動の手間が少ないことから、小さな子ども連れの移動時にスムーズな行動が可能です。また、浴場や売店などの施設が近接して配置されているため、親が交代で利用しやすい構造になっています。周囲の音が伝わりにくい客室の設計も、就寝時の環境を重視する家族層には注目されています。
ツーリング・車移動の人に快適なのは?
自動車やバイクで移動する旅行者にとっては、車両甲板への誘導のしやすさや積み下ろしの導線が重要なポイントになります。「ふらの」ではバイク専用スペースが確保されており、固定器具の設置や誘導スタッフの手際が評価されています。乗船時の誘導がスムーズで、車両を降りてから客室までの動線も短く、荷物を運ぶ負担が少ないという特徴があります。
「さっぽろ」は車両の収容台数が同規模であるものの、積み下ろしのタイミングやルートに若干の違いがあり、利用者によっては待機時間の印象に差が出ることがあります。また、バイク利用者向けにターミナルで配布される案内資料のわかりやすさや、受付対応のスムーズさにも個別の傾向があります。夜間出発時の照明や誘導表示の見やすさもチェックポイントの一つです。
船旅好き・船オタク目線での違い
船そのものを楽しみにしている層にとっては、内装の仕上げや機関部周辺の構造、デッキの配置といった細部に注目が集まります。「ふらの」は内装の素材感や間接照明の演出にこだわりがあり、写真撮影や観察を楽しむ人にとって魅力的な視点が多く用意されています。展望ラウンジや通路の作りも含め、船内を歩いて楽しむ構造が意識されています。
「さっぽろ」では、機関部の振動音やエンジンの鼓動を感じやすいエリアがあり、船の“動き”を体感することに興味がある層に好まれます。甲板の構造やスクリューの水音を感じるポイントなど、船好きならではの観察対象が多く、旅の間に船舶そのものへの理解を深めたい利用者にとっては充実した時間が過ごせる設計になっています。
まとめ
「さんふらわあ ふらの」と「さっぽろ」は、いずれも大洗〜苫小牧間を結ぶ長距離フェリーとして高い快適性を備えた船ですが、細部に目を向けると設備や設計、雰囲気にそれぞれの個性があります。客室の遮音性や内装デザイン、大浴場の構造やレストランの雰囲気など、乗船中の体験に影響する要素は多岐にわたります。
また、利用者の属性や旅の目的によって「より快適に感じられる船」は異なります。家族連れ、ツーリング利用者、初心者、そして船旅ファンなど、それぞれのニーズに合わせた選び方ができるよう、事前に情報を把握しておくことが重要です。予約時に船を指定することは難しいケースが多いですが、スケジュール調整によって希望の船を選べる可能性もあります。
移動手段としてだけでなく、旅の思い出の一部としての“船選び”を楽しむことで、フェリー旅はより特別な体験になります。「ふらの」「さっぽろ」それぞれの魅力を理解したうえで、自分に合った船を選ぶ時間もまた、旅の楽しさのひとつと言えるでしょう。