函館を訪れた観光客の中には、「小いけ」という名前のカレー店が複数存在することに戸惑う人も少なくありません。「小いけ本店」や「元祖小いけ」といった似た名称の店舗が存在し、それぞれに独自の看板を掲げて営業しているため、どちらに入るべきか迷ってしまうケースが多く見られます。
旅行先での食事は、ただの食事以上の体験です。だからこそ、「せっかくなら本物の味を」「正統な店で食べたい」と考える人もいるでしょう。一方で、どの店も魅力的に見えて選べないという声も少なくありません。とくに「本店」と「元祖」という言葉が使われていることで、それぞれに歴史やこだわりがあるのではと気になるのも当然です。
この記事では、函館にある「小いけ」の中でも特に混同されやすい「本店」と「元祖」の違いについて、創業の歴史やカレーの味、店の雰囲気などを多角的に紹介していきます。観光の予定に組み込む前に、どちらが自分の好みに合っているのかを判断するための手がかりになれば幸いです。
本店と元祖「小いけ」の関係とは?
創業の歴史とルーツ
「小いけ」のルーツは、昭和23年(1948年)の函館にさかのぼります。当時、洋食文化が広まりつつあった中で誕生したこの店は、家庭では味わえないスパイスを使った本格カレーを提供する店として人気を博しました。創業者・小池氏は、洋食の修業を経て函館に店を構え、地元の人々に愛されるカレーを提供し続けました。
その後、家族や親族、従業員などが店の運営に携わる中で、運営方針の違いや代替わりをきっかけとして、のれん分けや独立といった動きが起こります。結果として、創業の味を引き継ぐとする複数の店舗が誕生し、それぞれが「本店」や「元祖」といった看板を掲げるようになりました。
のれん分けと店名の由来
「本店」を名乗る店舗は、創業地である場所に近く、伝統的な屋号を守るという意識からこの名称を採用しています。店主も創業家との関係が深く、創業当時の製法や店構えをなるべく維持することに重きを置いています。
一方で「元祖」を掲げる店舗は、初代店主から直接レシピや技術を受け継いだとされる人物が独立して開いた店舗です。こちらは「最初にカレーを出したのは自分たち」という主張のもと、元祖の名を使用しています。看板やメニューには、その正統性をアピールする文言が添えられていることもあります。
両店ともに「小いけ」の名を冠しながらも、それぞれ異なる立場や経緯を背景に持っており、訪れる側からすると一見同じように見えても、運営者の考え方や歴史への向き合い方に違いが見られます。
メニュー・味・価格の違い
カレーの味・スパイスの特徴
本店のカレーは、ルーにしっかりとしたコクと深みがあり、バターの風味や炒め玉ねぎの甘みが際立つのが特徴です。辛さは控えめながらもスパイスの香りが立ち、まろやかな口当たりで、どこか懐かしさを感じさせる味わいになっています。具材には牛肉を使っており、煮込まれた肉は柔らかく、ルーとの一体感を演出しています。
一方、元祖を名乗る店舗では、スパイスの輪郭がよりはっきりしていて、ピリッとした刺激が感じられます。ルーのとろみはやや軽めで、口の中でさっと広がるような爽快感があります。こちらも牛肉がメインですが、スライス状の肉を使っていたり、部位の選び方に工夫が見られたりすることがあります。
提供メニューとセット構成
本店では、ビーフカレーを中心に、エビフライやコロッケなどのトッピングが選べるスタイルになっており、カレーとのセットメニューも充実しています。特に、サラダやスープがつくランチセットは観光客に人気で、全体としてバランスの取れた構成が特徴です。また、子ども向けのカレーや、小盛サイズなども用意されています。
元祖の店舗では、メニュー構成がややシンプルで、カレー単品の印象が強くなっています。とはいえ、ポークカレーやチキンカレーなどのバリエーションもあり、辛さやトッピングを自分好みに調整できる自由度があります。常連客が注文する裏メニュー的な存在や、日替わりのトッピングがあることもあります。
価格帯とコストパフォーマンス
本店の価格帯は、一般的な観光地価格といえる水準で、カレー単品で800円台から、トッピングやセットを加えると1,200円前後になることが多いです。内容に対して価格が納得できると感じる人が多く、特にボリューム面での満足度が高く評価されています。
元祖の方は、やや価格を抑えた設定になっており、シンプルなカレーであれば700円前後から注文可能です。トッピングを追加しても1,000円前後に収まることが多く、気軽に立ち寄りやすい印象があります。観光客だけでなく地元の常連が日常的に通える価格帯となっています。
店舗の雰囲気とアクセスのしやすさ
店構え・内装・座席数の違い
本店は、落ち着いた佇まいの外観で、古き良き洋食店の風格が感じられる木造の建物が特徴です。店内はテーブル席が中心で、淡い照明とレトロな内装が調和しており、ゆったりとした時間が流れています。座席数はやや多めで、団体客にも対応しやすく、地元客と観光客がバランスよく訪れています。
元祖の店舗は、よりカジュアルな雰囲気で、町の食堂的な趣が残っています。店構えはシンプルながらも年季が入っており、地元に根付いた印象を与えます。店内にはカウンター席があり、常連客が一人で食事をする姿もよく見られます。座席数は少なめで、こぢんまりとした空間ながらも回転が早く、活気のある雰囲気です。
立地と観光動線との相性
本店は市電の「十字街」電停から徒歩数分の距離にあり、ベイエリアや金森赤レンガ倉庫群からもアクセスしやすい立地にあります。観光名所と近接しているため、観光の合間に立ち寄りやすく、観光ルートの中に自然と組み込みやすい位置にあります。周辺にはカフェや土産店も多く、散策を楽しむついでに立ち寄れる利便性があります。
元祖の店舗は、やや住宅街寄りの立地にあり、市電の最寄り電停からも徒歩圏ではあるものの、観光地の中心からは少し離れた場所にあります。その分、観光客の密集を避けやすく、地元の日常に溶け込んだ空気を感じられるエリアです。観光地から足を延ばして訪れる感覚にはなりますが、そのぶん混雑も少なく落ち着いた訪問が可能です。
営業時間・混雑状況
本店の営業時間は午前から夕方までが中心で、ランチタイムには混雑することが多く、週末や観光シーズンは行列ができることもあります。ピークタイムを避ければ比較的スムーズに入店できますが、繁忙期には待ち時間が発生するケースもあります。予約には対応していないことが多いため、時間に余裕を持って訪れる人が多いです。
元祖の店舗は、昼時を中心に営業しており、夕方には閉店することが一般的です。ランチタイムは常連客でにぎわいますが、回転が早く、入店待ちが長時間にわたることは少ない傾向にあります。平日の昼間は比較的空いており、地元の人が日常的に食事に訪れる姿が目立ちます。曜日によって臨時休業がある場合もあるため、事前に確認するのが安心です。
地元民と観光客の支持はどっち?
SNS・口コミでの評価比較
本店は、観光情報サイトやSNSでの露出が多く、初めて訪れる人にとっては目にしやすい存在となっています。Instagramでは「#函館カレー」や「#小いけ本店」といったタグ付きで投稿されており、外観や盛り付けの美しさが注目されることが多く見られます。旅行系ブログでも紹介される機会が多く、観光の一環として訪れる人の感想が豊富です。
元祖を名乗る店舗の口コミは、SNSよりもGoogleマップや食べログなどに集中しており、地元の人による投稿が目立ちます。料理の味に対する言及が多く、「変わらぬ味」「昔ながらの風味」といった表現が頻出しています。観光客の投稿もあるものの、店舗の立地や知名度から本店に比べて数は控えめで、内容はより実質的なレビュー傾向にあります。
地元客に愛されているのは?
本店には、地元の常連客も一定数見られますが、観光シーズンになると客層の多くが道外からの訪問者になります。週末や連休中には観光客の比率が高くなり、地元の人は混雑を避けて別の時間帯を選んで来店するケースもあります。地元紙やローカルTVでの紹介実績もあり、地元内外問わず認知度の高い店舗です。
元祖の店舗は、地元の常連による支持が根強く、平日でも決まった時間に訪れる常連客の姿がよく見られます。近所に住む高齢者や、かつて通っていたという中高年層が、日常的な外食として足を運んでいる様子がうかがえます。世代を超えて親しまれており、地元の人にとって「いつもの味」として定着していることがレビューからも感じ取れます。
観光客におすすめなのは?
本店は、観光ルート上に位置しており、函館山やベイエリア観光の合間に立ち寄れる利便性から、観光客にとって訪れやすい条件がそろっています。店舗の外観や料理のビジュアルが映えるため、写真を撮ってSNSに投稿したい層にも好まれています。ガイドブックへの掲載も多く、初めての函館訪問者にとっては選択肢に入りやすい存在です。
元祖の店舗は、観光客が自発的にたどり着くにはやや情報が少なく、知っている人が目的を持って訪れるケースが中心になります。そのぶん、混雑が少なく落ち着いて食事ができる環境にあり、「観光地らしくない地元の味を楽しみたい」という層からの支持を集めています。店内には地元の雰囲気が色濃く残っており、観光の合間に生活感のある空気を感じたい人には向いています。
どっちに行くべき?タイプ別おすすめ早見表
こんな人には「本店」がおすすめ
旅行中の食事に「間違いのなさ」を求める人や、ガイドブックや観光サイトを参考にお店を選びたい人には、本店が向いています。ベイエリアや金森赤レンガ倉庫といった観光名所からのアクセスが良く、移動の途中で無理なく立ち寄ることができます。店構えや店内の落ち着いた雰囲気、写真映えする盛り付けを重視する人にも適しています。
ゆっくりとした食事の時間を過ごしたい人や、テーブル席でのんびりカレーを楽しみたいファミリー層にとっても、比較的広めの店内は利用しやすい条件が整っています。サラダやスープが付いたセットメニューが充実しているため、観光中の昼食としてボリュームや栄養バランスを求める人にも対応しやすい構成になっています。
こんな人には「元祖」がおすすめ
函館の地元感を体験したい人や、観光客の少ない落ち着いた空間で食事をしたい人には、元祖を名乗る店舗が適しています。市電の最寄りから少し歩く立地であることもあり、知る人ぞ知る店として、目的を持って訪れる人が多い傾向にあります。カウンター中心のレイアウトは、一人で訪れても気兼ねなく過ごせる雰囲気があります。
食べ歩きやグルメに興味がある人で、「昔ながらの味」「地元の常連が通う店」に惹かれるタイプにも向いています。スパイス感が際立つカレーを求める人や、価格を抑えつつしっかり満足感を得たい人、素朴な外観に魅力を感じる人にとっては、元祖の店の空気が心地よく映るかもしれません。
味・雰囲気・アクセスの比較表
味の特徴
本店: まろやかでコクのあるルー
元祖: スパイスの効いた引き締まった味
雰囲気
本店: レトロで落ち着いた洋食店風
元祖: 地元密着型の食堂風
座席構成
本店: テーブル席中心・広め
元祖: カウンター中心・こぢんまり
観光動線との相性
本店: 観光地に近く立ち寄りやすい
元祖: 住宅街寄りでやや奥まった場所
価格帯
本店: セットありで1,000円前後が中心
元祖: 単品中心でリーズナブル
混雑状況
本店: 観光シーズンは行列ができやすい
元祖: 平日昼は常連中心で比較的落ち着く
支持層
本店: 初訪問の観光客・ファミリー
元祖: 地元客・一人客・リピーター
まとめ
函館に数あるご当地グルメの中でも、「小いけ」のカレーは根強い人気を誇る名物のひとつです。しかし、同じ「小いけ」の名を掲げながらも「本店」と「元祖」に分かれて存在しており、その違いを理解しないまま訪れると戸惑うこともあります。
それぞれの店舗は、創業の背景や店主の系譜、味の方向性、サービスのスタイルなどにおいて独自の個性を持っています。どちらも「小いけ」の名を大切に守り続けてきた歴史があり、現在も多くの人に親しまれています。
観光で初めて函館を訪れる人にとっては、アクセスや店構えの印象、口コミでの情報が店舗選びの大きな手がかりになります。一方、地元に根ざした日常の味わいや、昔ながらの雰囲気を重視したい人には、異なる視点での選択が求められます。
どちらの店も、それぞれの魅力を持ちながら、函館という街の食文化を支える存在です。自分の好みや旅のスタイルに合わせて選び、ひと皿のカレーを通じて「小いけ」の味に触れてみるのも、旅の楽しみ方のひとつです。